2006年12月08日
いちむらみさこ「Dearキクチさん、ブルーテント村とチョコレート」
都心の公園で暮らすひとりの女性アーティストが、かつてその公園で暮らしていた「キクチさん」という女性に宛てて書いた、暮しと人々の物語。そこには実にいろいろな人が住んでいて、意外にもフツーに暮らしている。お茶を飲み、絵を描き、近所づきあいをし、ごみを拾う。そういう暮しを一般的にフツーと呼ぶかどうかは難しいが、それでも彼らはその公園でフツーを暮らしている。この本はそのフツーがとてもよく描かれている。
フツーを描くのは実はかなりめんどくさいことである。とくに状況がフツーでなければないほど、その前提の部分にある《動機》や《立場》がジャマをする。だから完全な第三者であっても当事者であってもそれはそれでまずい。この本の場合、筆者は限りなく当事者ではあるが、それ以前にアーティストであるという部分で、何かが保たれているような印象を受ける。逆を言えば、アーティストといわれる人種の立ち位置やスタンスがよく示されているともいえるかもしれない。
また本書に対するもうひとつの切り口として「メルヘン」がある。いささか安易な切り口だが、確かにこの本における筆者の語り口は「メルヘン」と呼ぶにふさわしく、キラキラとした空気が漂っている。もちろん内容が内容なのでキラキラとした話だけにとどまるはずもない。行政措置によってテントが撤去されたり、頭のおかしい住人に筆者自体が傷つけられたりもする。しかしそれらの現実を「メルヘン」という筆者の視点を通して見た時、それが意外にも世の中のを渡っていく上で有効な手段であることがわかる。そして唐突にメルヘンから遠ざかる文体もまた、メルヘンが筆者にとっての処世術であることを裏付けるようで面白い。
ホームレス、アート、メルヘン……どんな切り口から読むのも間違いではない。しかし、個人的にはそういった文脈を一度捨てた上で向き合うのが本書の正しい読み方のように思う。そうすればきっと思いもかけない光のようなものが浮かび上がってくる。それはきっといちむらみさこという人物が持っている力強さによるものかもしれない。
そうだな、できれば10代の女の子に読んで欲しいかな。せっかくメルヘンなんだし。
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2006年10月11日
狭間恵三子「あなたの知らない妻がいる」
サントリー次世代研究所から同研究員・狭間恵三子さん名義の新刊「あなたの知らない妻がいる」を献本いただきました。ありがとうございます。
で、さっそく時間見つけてパラパラと読んでるんですが、こ、これ、めちゃくちゃおもしろい……。
サントリー次世代研究所は前サントリー不易流行研究所の頃から統計調査を行わず、かわりにインタビューを軸としたユニークな社会研究を行っている研究所で、今回は主に団塊の世代の夫婦に対していわゆる「夫婦の意識格差」についてかなりつっこんだ調査を行っています。
で、もうこれがもう、ほとんど「おもいっきりテレビ」なみに生々しいw。自分がその世代だったらかなり深刻に受け止めるんでしょうが、もう完全にワイドショー的に悶絶しながら読めてしまいます。
転載元:「あなたの知らない妻がいる」
「何でそれをきちんと言ってくれなかったんだ」
「それを言ったら結婚がだめになるかと思って。隠していたのは申し訳ないけれど、だんだん良くなっているの」
幸いなことに子どもは授かりました。さすがに母体を考えると二人目は諦めざるを得ませんでしたが、室井さんはひとりだけでもありがたかった、と言います。しかし、今でも夫婦げんかをすると、ついそのことが口をついて出てしまいます。
「おまえは俺をだました。重大な過失を犯したのだ」
たぶん内容のわりに柔らかい文体のせいなのかなという気もしますが、もう無駄にドキドキしながら読めてしまいます。途中では「妻の大ホンネ大会」というトークもあって、まだ最後まで読んでませんがすでにかなりお腹いっぱいな気配ですw
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