作家コメント

今回の展覧会「STORE」は、タイトル通り期間限定の「お店」です。販売する商品は「言葉」、それも誰かが声に出したり書き記したりする前の、純粋な記号としての言葉です。それを美術的な手法によって形にして、販売します。これが同展覧の大まかな内容です。

コンセプトにおいては、2つの要素があります。

ひとつは「記号としての言葉に経済的価値を見いだすこと」です。一般に言葉が売り買いされる場合、その商品価値は内容やそれを発する人によって決められます。しかし今回販売の対象となるのは純粋な「記号」としての言葉です。実際のところ記号は記号にすぎず、言ってみれば空っぽの「入れ物」のようなものにすぎません。しかしその「入れ物」こそがわれわれの思考や感情を支え、想像力を刺激するものであることもまた、事実だと言えるでしょう。そこで今回の展覧会では、通常では価値のないものとされる「言葉」を「a piece of meaning」という小さなシリーズ作品の形状に置き換え、販売します。

もうひとつは「アートを売る」ということです。これはごく当たり前のことのように思われるかもしれません。しかし現在の美術を取り巻く環境、すなわち博物館化した美術館や既存の顧客だけを相手とするギャラリーを中心とした流れは、美術に対して不当にも特権階級的地位を与え、事実上美術を「買うもの」から「見るもの」へと仕立て上げてしまっているように思われます。もちろんスーパースターの作品を手頃な値段では手に入れることは出来ないかもしれません。しかし、誰もが美術を買う権利はあるわけですし、また実際にそのようにできる状況はもっと用意されるべきだと考えます。今回ギャラリーやアートセンターを出て、あえて街の店舗のような場所で展覧会を行う理由はここにあります。

ただこういった美術の文脈における作家の目論みは、「店」という形態をとった以上、取り立てて重要なことではないのかもしれません。新しいお店をのぞくような心持ちで、気軽に会場に足をお運びいただければ幸いです。

2005年9月
美術家 岩渕拓郎

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