原稿完成稿


【最初に〜出会い】

岩淵:今回はインタビューという形でお話を聞くわけだけど、そもそもインタビューにこういう話が聞きたいっていう現実的な目的があるのね。だけど今回の場合には特にそういう目的がなくて、むしろ僕自身の近藤みのりに対しての漠然とした興味それは人としての近藤みのりだったり、友人としてだったり、異性としてだったり、世の中で言うところのいわゆるハタチという存在だったり、全部ひっくるめて「近藤みのり」という人物に興味がある。それがこのインタビューの動機なんだけど、ところでみのりちゃんは、人に話をしたり何かを聞かれて答えたりするのは、結構嫌いじゃなさそうだ
ね。

近藤:うん、ぜんぜん嫌いじゃないよ。それは相手に自分を伝えたいっていう思いを満たすのと同時に、自分の中の確認作業っていうのもすごくあると思う。言葉にすることで自分の中にただよっていた漠然とした気持ちを形にするっていうか、それによって実体をもたせているというか。でもそれが本当に形にできてるかっていったらそれは違うと思うけどね。

岩淵:友だちとこういう話をしたりする?

近藤:それは友だちにもよるかな。すごく核心的な話をつっこんでする友だちもいれば、そういう話はしないけど仲いい友だちもいる。それは「この子にはここまでの話」とかいうことじゃなくて、ただその人に一番相応しいやり方でつきあってるだけで、みんな同じように大事だね。

岩淵:それは他人に合わせられるということだとお思うけど、そういうのは比較的苦痛じゃないのかな?

近藤:うん、ぜんぜん苦痛ではないね。すごく自然にやってる。みんな違うタイプだけど、基本的に誰といてもそれぞれに刺激をもらってて、面白いよ。

岩淵:昔からそうできてた方?

近藤:たぶん何も言えないタイプの人もいると思うけど、私は何でも自分から言ってしまってた方。でもそのせいで誰かを傷つけてしまったり、逆に自分が傷ついたりとかしたこともある。だから今は何でも言えばいいというわけではないというか、相手を傷つけないというのはすごく思うね。

岩淵:昔から友だちは多い方? 今は多いみたいだけど。

近藤:多いね。でもそれは高校入ってとか、大学入ってとか、だんだん世界が広がっていったっていうのがあると思う。私の家はものすごい田舎ってわけじゃないけど、それでも幼稚園から小学校、中学校ってみんな知ってるみたいな感じで、そういう固定された人間関係は正直私には息苦しかったのね。もちろんその中でうまくできなかったってわけじゃないけど。だから今いろんな人に出会えるのは嬉しいし、そういう出合いはもれなく大事にしたい。それはいつでもそう思ってるよ。

岩淵:そういえばいろんなことやってるよね。狂言とか、声楽とか、バイトとか。そういう広げ方っていうのは意図的なものなの?

近藤:あー、それはどっちやろ? 出合いとかってやっぱり縁だと思うし、そういう素敵な出合いは降ってくるようなものだと思うから。でも降って来た時にそれが受け止められるようにするのは自分自信だと思うし、そのための器はちゃんと作っときたいと思うわけ。もちろん無理に扉をドンドン開けたりするつもりはないけど、でも結果としてドアあけたらいつも新しいことがまってるから。

岩淵:受け皿っていうの現実的にはどういうこと?

近藤:例えば、初めて会った人とも仲良くなってみるっていうか。元から人見知りしないタイプだけど、向こうは人見知りするタイプかも知れへんやん。だから今は第一印象としてそれほど親しく慣れる可能性がないように見えても、でも実はおもしろい面をもってるかもしれない。だから、それを知りたいと思うし、仲良くなりたいっていう矢印はいつも向けてるね。何も知らないのに嫌ったりするのはもったいないと思うよ。

【好きなもの、嫌いなもの】

岩淵:人によっては疑ってみるところからスタートする人もいると思うけど、そういう人にくらべたら嫌いな物は少ないだろうね。嫌いなものってある?

近藤:ん……食べ物だったらシータケかな。なんていうか、あの裏のヒダヒダが苦手でね。あのジューゥってでてくるのもあかんし。あと高いところもダメ。高さはあんまり関係ないんだけど、三階建てとかでも通路がベランダみたいになってるやつはダメかな。
岩淵:でもそれだけ嫌いなところが言えるってことは、それに関してもいちおう好きになろうと試みたわけだ。

近藤:そうそう。かなりアプローチはするんだけど、いっつも玉砕。「あかんわ、まだ……」っていう(笑)。

岩淵:じゃあ最近好きになったものは?

近藤:それはもうブッチギリでカメラ。この前新しいカメラを買ったんだけど、もう嬉しくて嬉しくて。ずっと興味はあったし、やったらきっと好きになるっていう自信もあったんだけど、お金も時間もきっかけもなかったから。でも今度旅行でビルマに行くことになって、それをきっかけでいいカメラがどうしても欲しいと思うようになって。中古で買ってんけど、ホントに嬉しくてね。これから一生感動を共にする相棒っていうか、これから私が目で見て感動したことをこの子は一緒にレンズをとおして見るんやと思ったら愛おしくて。学校とかも持っていっててるんだけど、もとから素敵だったものはともかくとして、今までぜんぜん気にもなってなかったことが素敵なわけ。家から駅までの道とかも、カメラを下げて自転車にのってるだけでドキドキして、「これもすごい! あれもすごい!」って。前にもまして世界キラキラキラーって。純粋に感動してる。

岩淵:じゃあ写真が好きっていうよりも、むしろ写真をとることが好きなの?

近藤:でも見るのも好き。この間大丸で立木(義浩)さんの写真展やってて一人でフラッと行ったんだけど、ホントにグッときてね。もうバタバタバターって泣いてて。小さい女の子に顔覗き込まれたり、警備員のおじさんに「大丈夫ですか」って声かけられてりしたんだけど(笑)。ここ一番グッときたことかな。

岩淵:どういうところがグッときたの?

近藤:それは神戸に住んでるフツーの人たちを写真にとってたのね、普通にタコヤキ屋のおいちゃんとか、豆腐屋のおばちゃんとか。それには名前とちょこっと一言書いてあったりしたんだけど、とにかく全員すごいって思ってね。最初は「このおっちゃん、なんでこんなに笑ろてんねんやろう」「初めてカメラ向けられてよくこんな自然に笑えるわ」って思ったんだけど、たぶんあれはあの立木さんがすごくって、その人のそういう部分を切り取ったんやと思うのね。当たり前に生活してる人にすごいドラマがあるっていうか、普通誰も知らないだけでみんなすごいドラマを生きてんねんなぁって思って。カメラマンが切り取ってるのは一瞬だけど、でもそれはずーっと繋がってる時間の帯なんだと思ったらかなりグッときた。ホントによかったよ。

岩淵:今後、こんな写真をとってみたいというのはある?

近藤:今はまだレンズを覗いて世界がこう見えるってことだけで喜んでるけど、ミャンマーではそういうのも撮ってみたいと思うね。観光地に行って写真ばっかり撮ってる人は本末転倒な感じがしてキライだけど、今回はカメラを持って旅に出るということに重きをおいてるから。自分が新鮮に感じたものを自分なりに切り取ってみたいと思うし、別に紀行文を書くとかそんな大それた目標があるわけでもないけど、それを自分の言葉で誰かに話す材料としてそういうのがあったら素敵だと思うな。

岩淵:それでまた写真に対しての自分のスタンスが変わったらいい
ね。

近藤:変化し続けるものを切り取って何回も見れるっていうことは、やっぱりすごいことだと思うよ。たぶんそこにはその時分からなかった価値が後からついてくると思う。毎年お正月には親戚で集まってて写真をとるんだけど、それは身内以外には何の価値もない写真よね。でも毎年撮ってるから赤ちゃんが毎年大きくなっていってるのもわかるし、この年はいとこのお兄ちゃんがお嫁さんつれてきてたとかもわかる。そういう当たり前にある人生の年表みたいなのを写真は残せるでしょ。それは有名なカメラマンが撮った写真じゃなくても、同じように宿ってる価値だと思う。

【彼氏のこと】

岩淵:最近、彼氏できたらしいね。遠距離恋愛だって言ってたけど。

近藤:東京。でも彼にはすごく精神的な面で救われてる。

岩淵:会ってないのに?

近藤:友だちからは「みのりは遠距離は無理なタイプ」って言われてたし、私もできるだけ近くにいて一緒に感動とかを共有したいと思ってた。でも今好きな人はもう初めて出会った時から遠距離だっていうのは分かってたし、毎週末のデートとかも余裕でできないんだけど、すごく精神的な面で繋がってるというか、支えられてるというか。ちょっと歳は離れてるけどね。

岩淵:いくつ離れてるの?

近藤:干支が一緒。でもいい意味でも悪い意味でもオッサンじゃなくて、すごく精神が清潔な感じがする人。

岩淵:知り合ったきっかけは?

近藤:お互い同じ先生に狂言をならってて、私の稽古場は京都で彼は東京だったんだけど、ある日東京で合同の会みたいなのがあったのね。知り合ったのはその時だけど、もう鐘がなったよ(笑)。安っぽい言い方だけど、私は「出会ってしまった」としか表現できないね。で、すぐに一回コクってふられてるんだけど、歳も離れてるし、距離も離れてるし、お互いのことをあまりにも知らないのにっていうことやって。でも私はこの人しかいないって思ってたから。自分で言ったのもふられたのも初めてだったけど、それはもっともな理由だったし、そんな簡単に二十歳の女の子にコクられたからついていこうみたいな人やったら好きじゃなかったな。ちょっと臆病で、思慮深いタイプ。

岩淵:どうして鐘がなったんだろうね。

近藤:容姿とかで一目惚れってタイプではないと思う。けど、些細な行動にグッとくるっていうか、たぶんそれが惹かれてるってことなんだと思うけど。大したことは何もしてないし今となっては思い出せないけど。

岩淵:オーラみたいなもの?

近藤:自分でオーラを放出してるタイプじゃないね。明るくて誰とでも仲良くなれるタイプだけど、純粋に祝福されてるタイプって言うのもあるやん。そういうタイプじゃなくて、きっとこの人はいろんな傷を持ってるんやろうなみたいな。それはたぶん他の人には分からなかったかも知れないし、本人もそれを小出しにするようなタイプじゃないけど、私はなぜかそういう臭いを嗅ぎとってしまった。たぶんそこにたまらなく惹かれたし、そういう部分も知りたいと思った。でも、そういうのって簡単に人に話せるものじゃないし、ましてや二十歳の女の子に出会って二、三日で好きですって言われたって信じられないのは当然だと思うから。

岩淵:つき合ってどれくらい?

近藤:三ヶ月くらいかな。

岩淵:その間に関係が変わったりした?

近藤:東京で一回出会ってから、告白した時もメールだったし、少しずつお互いのことを知って「じゃあつき合いましょう」ってなったのも電話だったから、お互いの関係がバーチャルになっていくのが恐かったね。まったく会ったことない人とやってるわけじゃないけど、でも最初にすごく親しくて離れたわけじゃないから。もちろんいろんな話をしたけど、結局は言葉を通じて相手の印象を想像するしかないわけでしょ。だからお互いの想像の中で人間像ができていくことが恐かったし、最初は早くあわないとダメだみたいな感じだった。でも向こうは逆に会って失望されるのが恐いみたいなのがすごいあったみたいだけど。

岩淵:つまり個人的な気持ちの中ではあんまり変わってないわけね。

近藤:うん。でも私、誰とでもそう。別に彼氏さんだけじゃなくて、人間関係が最初からあんまり変わらないね。初めて会った人でもあんまり初めてみたいじゃないし。だんだんお互いのことを知っていけるのはもちろん楽しいしいんだけど。

岩淵:それはその人がどういう人であるかっていうのを短時間で認識する能力があるってことだと思うけど。

近藤:それが能力なのかは分からないけど、感覚として持ってる感じはするかな。相手をパッと見て、こういう人かなぁと思って、その人と仲良くなれるように自分の出し方を無意識に選んでるんだと思う。もちろん外してることも多いと思うけど(笑)。

岩淵:恋人っていうよりむしろいい友だちとかいい先輩っていう印象を受けるけど、彼は世の中に一人しかいない恋人としては当然「特別」なわけだよね。

近藤:うん、そうだね。みんな特別だけど、恋人っていうポジションがあるのはあの人だけだね。

岩淵:彼が恋人として特別な要素はどういうところ?

近藤:私はあんまり年齢とか生別とか関係なく深い付き合いをしたいって思ってるし、精神的なつながりを求めるタイプだと思う。例えば毎週デートして、たまにはお泊まりもして、っていうような恋愛には向いてないって分かってたし、そういうのをやってみたこともあるけど向いてなかったというのが分かってて……なんかだんだん言葉にすることにで遠ざかってるっていう自覚があるから、うまく言えないけど。

【家族のこと〜終わりに】

岩淵:じゃあ少し話をかえるけど、初めての人に会った時にその人の印象を吸い取る上で僕自身が重用視するのは家庭環境なんだよね。そこには両親がどんな人だとか、お家がどこであるとか、いろんな話があると思うんだけど、その中ですごく重要なのが親の愛情を受けて育ったかどうかってことだと思うのね。だからぜひ家族の話は聞いてみたいね。

近藤:私は四人姉妹の一番上。それは私の人格に与えてる要素としては大きいと思うよ。

岩淵:それはお姉ちゃん的ってこと?

近藤:常に一番上だったから道を切り開いてきたっていう自覚がある。誰かがやったサンプルを参考にしたりっていうことはできなかった。それは今いろんなことに意欲的っていうか、挑戦するっていうか、いっちょかみっていうか、そういう状況の原因はなってる思う。

岩淵:でもあまりお姉ちゃん的な印象は受けないね。

近藤:そう。初めてあった人には一人っ子か末っ子って言われる。結構奔放な感じだから、守られて自由にしてるっていう印象を受けるみたい。普通だったら一番上はオットリめで二番目バイタリティー溢れるみたいな感じかもしれないけど、私は切り開いてきたし、コケても「それも人生」みたいな気でいるし。それは妹とは性格が違うところかな。

岩淵:両親はどういう人?

近藤:親は私を自由に育ててくれた。自由と責任じゃないけど、自分の人生を自分の納得いくように自分の判断でやってその責任は自分で負いなさいみたいな方針だったから、だから私は今でも放し飼い(笑)。でもそれは親の信頼の上に成り立ってるっていう自覚もあるから、私も親に対して言えないようなことはしない。そういう教育方針だったと思う。

岩淵:お母さんと学校の先生だったよね。

近藤:お父さんもそう。二人とも中学の教師で、父親は国語の先生で、お母さんは妹が生まれて辞めたけど保健の先生。別に勉強とか教えてもらったことはないけど、でも両親は今でも尊敬してるな。それは絶対そう。これは恋愛とかでも同じだけど、人間関係って尊敬がないとやっぱりいざという時厳しいでしょ。今つき合ってる人は、友だちに自慢したいようなオシャレな場所にどんどん連れてって見せびらかしたいような人じゃないけど、家庭とか作った時に、子供に私はお父さんの自慢をしちゃうね。お母さんは私にお父さんの自慢をするし、うちはそういう話ができる親子。私は彼氏の自慢をするし、お母さんはお父さんの自慢をするし、おばあちゃんはもう亡くなったけどおじいちゃんの自慢をするしみたいな。座談会をよく三人でやってる。おばあちゃんも一緒に住んでるから。

岩淵:それはおばあちゃんも共有してるんだ。

近藤:おばあちゃんは私と違って親の言うことを聞く優等生で、田舎のお嬢さんだったんだけど、結婚相手は親が決めるのが当然な時代に駆け落ち同前でおじいちゃんと結婚してしまった人だから。そういうのを私に話してくれるし、だから私もそう言う話を娘に自信もってできるような人じゃないと、無理やなぁっていうのはあるわけ。

岩淵:お父さんの話があんまり出てこないけど?

近藤:お父さんは、あまり多くを語らないけど、私はずっと世界中で一番コワいのはお父さんだったし、一番尊敬してるのもお父さんだった。今となってみればもうお互い大人同士だし、相手もひとりの人間だっていうのが分かるから、過剰な期待とか失望とかそういうことはないけど。怒るのは主にお母さんで、お父さんは怒ることはなかったけど、何にも言わなくても恐い人だった。

岩淵:怒らないお父さんが恐いっていうのはどういうことかな?

近藤:それはうまくいえないけど……。

岩淵:でもすごくいわゆる「日本の父」的ではあるよね。

近藤:そうそう。友だちみたいに馴れ合って、お母さんに踏まれたりしてるようなお父さんでは絶対なかった(笑)。

岩淵:今年成人式を迎えたよね。もちろん二十歳になったからといって何かが劇的に変わるわけではないけど、自分が大人になってこそ見えてくる両親の何かっていうのもあると思うんだよね。そういう点で何か今思うことはある?

近藤:夫婦は仲良くないとダメだというのは本当に思うね。うちはお父さんがそういうタイプではなかったからあまり子供の前でラブラブするような夫婦ではなかったけど、でも仲がいいのは大人になってきてだんだん分かってきた。言っても親子は血つながってからいざと言う時、強いと思う。もし私が人とか殺してしまったとしても、親は親じゃない。でも、夫婦は血のつながりのない他人でしょ。その他人が家庭を作って生活しようと思うのは、やっぱり「一人でも生きていける、けど二人の方がいい」って思えるからこそ意味があるんだと思うし。

岩淵:オッケー、ありがとう。いろいろいい話が聞けました。

近藤:いちいちレスポンスが多いから大変だったんじゃない?

岩淵:インタビューアーにしてみれば助かるタイプだよ。

近藤:外国の女優さんとかってインタビューされたら自分の人生について語るでしょ。ああいうのはすごくかっこいいと思う。もちろん差し障りのないことを言ってるよりはリスクも大きいと思うけど、自分の意志を言葉にして伝えて、そのせいで何か起こっても自分で責任をとるっていうのは潔い態度だと思うし、私は常にそうでありたいと思う。だからうるさいっていうくらい喋ってるけどね(笑)。

インタビュー/編集:岩淵拓郎
2001年2月 CAPHOUSEにて

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