駅――。
毎日たくさんの人が
電車に乗ってどこかに出かけ、
そしてまたどこからか帰ってくる。
そこは「目的地」でもなく「通り道」でもない。
どこかに行くために、どこかに帰るために、
誰もが毎日ほんの少しだけ足を止める。
そんな駅で、読みかけの本を読みながら
なんでもない1日を過ごしてみたい。

JR灘駅北口駅舎は昭和9年に建設された神戸市内では数少なくない木造駅舎です。大きなアーチ窓と白い壁が印象的な愛らしい建築です。また、構内にある木造の跨線橋や1896年製造の英国製レールを使用したホーム上屋は、阪神間で現役最古級といわれています。

灘駅は灘文化軸と呼ばれる地域にあり、多くの学校の玄関口でもあります。古くは王子動物園のあたりに関西学院(現在は西宮市に移転)や神戸高商(現神戸大学)があり、多くの文人や美術家が闊歩した、文化村でもありました。現在でも海星女子学院、松蔭女子学 院、葺合高校、神戸高校などたくさんの学生たちが行き交っています。

阪神間が豊かな田園都市としての佇まいを持ち、多くの人を惹きつけ、この地に足を運ば せたとき、何がその風景を象徴し、人々の記憶の底に根を下ろしていたのでしょう?おそらく、今残されている建物の中では、それらの人が交錯し、風景の出会いとの発着点となる灘駅舎が、かつての記憶を伝える唯一のものと言ってもいいかもしれません。

その灘駅舎も平成16年に駅の橋上化が決定し、その長い歴史に終止符を打とうとしています。そこで私たちはこのなじみ深い駅をいつまでも記憶の隅ににそっと留めておくために、心地よい秋の週末をつかって「灘駅で本を読む」という会を企画しました。ホームの片隅で、跨線橋の下で、階段で……ただ気に入った場所に座り、読みかけの本を広げる。それは悲しみに暮れる別れのためではなく、やさしい気持ちでそっとサヨナラと告げるためのささやかな「お別れ会」です。

 

   
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